フッ化物≠フッ素
歯科情報&相談サイト"歯チャンネル88"を運営している 田尾耕太郎先生の記事より
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フッ素は癌を引き起こす?
- モラルの低い専門家と、現代医療の罪 -
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フッ素反対派がよく持ち出すフッ素の危険性の中に、
「フッ素は癌を引き起こす」というものがあります。
実際はどうなのでしょうか?
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フッ素の発がん性を調べた研究
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フッ素が癌を引き起こすかどうかを調べる最も確実な方法は、
2つのグループを用意して、
・一方のグループにはフッ素を毎日投与
・一方のグループにはフッ素を投与しない
という比較試験を行うという方法です。
しかし倫理上、このような実験を人間で行うことは不可能です。
そこで1990年代には実験動物(ラット)を用いて、
以下のような実験が行われました。
・一方のグループにはフッ化ナトリウムを餌に混ぜて投与
・一方のグループにはフッ化ナトリウムの投与なし
上記2つのグループを2年間追跡調査し、癌の発生率等について調べる
※よくフッ素と記載されていますが、フッ素は通常単体では存在できないので、
何らかの物質と結合してフッ素化合物(フッ化物)という形で存在しています。
フッ化ナトリウムはフッ素化合物の中で、歯磨き粉や洗口剤などに
最も一般的に使用されているフッ化物です。
この結果、フッ化ナトリウムを餌に混ぜたグループの一部に、
骨肉腫が発生しました。
フッ化物反対派はこのことを、
「フッ素が癌を誘発する根拠」としてよく利用しています。
しかし、実験の内容をもっと詳しく見ていくと、
いろんな事実が見えてきます。
・実験では、低濃度から高濃度まで、
様々なフッ化物濃度のグループを作り、
それぞれの濃度で癌の発生率の有無を調べています。
・骨肉腫が発生したグループは、
1日あたりのフッ化物投与量が、
「2.5mg/kg」と「4.1mg/kg」のグループでした。
1日あたりのフッ化物投与量「2.5mg/kg」と「4.1mg/kg」というのは、
どの程度の量なのでしょうか?
日本で定められているフッ化物の
1日あたりの至適摂取量と上限摂取量を見てみましょう。
【飲食からのフッ素摂取量参考値 医学研究所食品栄養局】
0~6ヶ月
至適摂取量:0.001mg/kg 上限摂取量:0.1mg/kg
6~12ヶ月
至適摂取量:0.056mg/kg 上限摂取量:0.1mg/kg
1~3歳
至適摂取量:0.054mg/kg 上限摂取量:0.1mg/kg
4~8歳
至適摂取量:0.05mg/kg 上限摂取量:0.25mg/kg
9~13歳
至適摂取量:0.047mg/kg 上限摂取量:0.16mg/kg
少年14~18歳
至適摂取量:0.047mg/kg 上限摂取量:0.16mg/kg
少女14~18歳
至適摂取量:0.052mg/kg 上限摂取量:0.18mg/kg
男性19歳以上
至適摂取量:0.053mg/kg 上限摂取量:0.13mg/kg
女性19歳以上
至適摂取量:0.065mg/kg 上限摂取量:0.16mg/kg
一番フッ素の影響を受けやすい
0歳児の上限量が「0.1mg/kg」ですから、
「2.5mg/kg」「4.1mg/kg」というのはとんでも無い高濃度です。
体重22kgの子供の場合は、50mg以上という計算になります
市販のフッ素入り歯磨き粉1本90g(フッ化ナトリウム900ppm)に
含まれるフッ化物の量が大体50mgですから、
フッ化物を50mg以上摂取しようと思ったら
毎日歯磨き粉を主食として食べ続けなければなりません^^;
つまりこの研究はあくまでもフッ素の発がん性を調べる研究であり、
「日常的に摂取するレベルのフッ素について調べているわけではない」
ということを理解しておく必要があります。
さらに、上記のラットの研究には続きがあります。
「2.5mg/kg」「4.1mg/kg」よりもさらに高濃度、
「8.1mg/kg」「9.1mg/kg」のフッ化物を投与していたグループでは、
フッ素の発がん性は確認できなかったのです。
そしてこれらの一連の研究の結論としては、
「実験動物中のフッ化物の発癌性に関する証拠は決定的ではない」
と締められています。
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人間ではどうなのか?
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動物実験ではフッ素の発がん性は証明されませんでしたが、
これはあくまでもネズミの話。
人間ではどうなのでしょうか?
人間の場合、先ほどのようにグループを分けて
片方にフッ素を投与、片方には投与をしないというような
比較試験は倫理上できません。
そこで、地域ごとの疫学調査に頼ることになります。
アメリカには水道水にフッ素が含まれている地域と
含まれていない地域がありますので、
それぞれの地域の癌の発生率を調べたりするわけです。
ただ、この方法には大きな欠点があって、
それは先ほどのグループを分けての比較試験のように、
純粋にフッ素の有無による差を比較できるわけではないということです。
(癌の発生には様々な要因があるため)
水道水にフッ化物が含まれている地域と含まれていない地域の
癌の発生率を調査すると、
水道水にフッ化物が含まれている地域のほうが
癌の発生率が高いというデータが出ることがあります。
フッ素反対派はこのデータを持ち出して、
「フッ素が含まれている地域のほうが癌の発生率が高い」という主張を行います。
しかし実際は、フッ素が含まれている地域と含まれていない地域で
癌の発生率に全く差が見られなかったというデータや、
フッ素が含まれている地域よりも含まれていない地域のほうが
癌の発生率が高かったというデータも数多く存在します。
フッ素と癌の関係を統計学的に調べようと思ったら、
様々な地域を比較した数多くのデータを
総合的に見て判断する必要があります。
様々な専門機関が様々な地域の、数多くのデータを
総合的に判断した結果、
「水道水にフッ素が入っているかどうかと
癌の発生率には相関関係はない」
という結論が導き出されています。
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日本ではどうなのか?
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12歳児の虫歯の数は
昭和62年には4.9本でしたが、
平成5年には3.6本、
平成11年には2.4本、
平成17年には1.7本、
平成23年には1.4本 と、
年々減り続けてきています。
この虫歯の減少に最も大きく関与しているのが、
フッ素入り歯磨き粉の普及だと考えられています。
(現在は市販の歯磨き粉の9割以上にフッ素が入っています)
一方、癌の患者数は年々増え続け、
昭和54年には年間約100万人だった癌患者数は、
平成17年には年間約280万人にまで増加しています。
フッ素の普及と癌患者の増加が相関しているため、
フッ素反対派はこれをフッ素が癌を発生させている証拠として
用いることがあります。
しかし、このデータを元に
フッ素と癌の間に相関関係があるというのは、
統計学の知識が無い素人が陥りやすい落とし穴です。
癌というのは高齢者ほど罹りやすいので、
比較をするのであれば患者数だけを見るのではなく、
「同年代での癌罹患率」を比較しなければなりません。
これを「年齢調整」と言います。
年齢調整を行い、同年代で癌の罹患率を調べてみると、
実は昭和35年から平成23年まで、ほとんど変わっていません。
(女性はむしろ少し減少しています)
癌患者数が増えているのは、高齢者が増えたためです。
もしフッ素が癌を引き起こすのであれば、
これだけフッ素入り歯磨き粉が普及し、虫歯が減っているので、
当然癌も増えていないとおかしいはずです。
このようにデータを冷静に読み解いていくと、
癌患者数の増加を根拠に「フッ素は癌を引き起こす」というのは
理にかなっていない主張だということがはっきりと見えてきます。
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なぜフッ素反対派は、フッ素が癌を引き起こすというのか?
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これだけ多くのフッ素と癌の間には
相関関係が無いという証拠があるにも関わらず、
フッ素が癌を引き起こすという意見は無くなりません。
それはなぜなのでしょうか?
以下は私の私見・推測ですので、
科学的に根拠があるものではありません。
個人的におそらくそうじゃないかな~と
思っていることを書いていますので、
参考程度にお読みください。
■ 一部のモラルの低い専門家の存在
医者、歯医者など専門家の中には一部、
モラルの低い人たちが存在します。
そういった人たちの中には
他の専門家とは違った独自の理論を述べることで注目を集め、
自院の集患に繋げたり、
本を出版して儲けようと考えている人もいるようです。
こういった人たちは先ほどの「フッ素は癌になる」のように
根拠に乏しい情報を発信して、一般の人たちの不安を煽ります。
通常、一つの情報をしっかり調べようと思ったら、
関連論文などの検索も行うので、
トレーニングされた専門家でも5時間や10時間、
場合によってはそれ以上時間がかかることも少なくありません。
しかし彼らは数多くの人とは違った意見を発信し、
注目を集めることが目的ですから、
情報の信憑性については一切確認せず、
ただ注目を集めやすい、過激な情報を矢継ぎ早に発信していきます。
こういった情報は記事としては面白いので、
注目を集めるためには効果的です。
また、彼らの発信する情報は、
基本的に「反医療」「反権力」であるという特徴があります。
元々医療や権力に対して不信感を持っているような人は、
「やっと本当のことを言ってくれる人が現れた!」
と、マインドコントロールされてしまいます。
こうして、モラルの無い専門家やマインドコントロールされた読者、
または、単に興味を引かれた一般人などによって、
根拠の無い情報は拡散していきます。
■ 現代医療の罪
モラルの低い専門家が
根拠に乏しい情報の拡散に加担していることは
疑いようがありませんが、
現在医療にも責任の一端があると私は考えています。
本来理想的な医療とは、
患者さんの意見に耳を傾け、十分な情報提供を行いながら、
その人と一緒に病気の改善に向けて歩んでいくというものです。
しかし実際には、医療は様々な制限の中で行われています。
医療と言えども経済活動の一部ですので、
利益を出さなければ医院を続けていくことができませんし、
従業員に給料を出すこともできません。
そうなると、1人の患者さんに
かけられる時間は限られてしまいますし、
患者さんとのコミュニケーションよりも
効率を重視しなくては
やっていけないという場合も多くなります。
そういった医院のスタンスが
医療に対して不信感を持つ人を増やしてしまっていることも
事実だと思います。
医療に不信感を持ってしまうと、
・自然的
・ナチュラル
・ホリスティック
など、現代医療とは関わりの無い、
目に見えない心や霊性などを重視したものに
惹かれるようになりがちです。
こうなってしまうと、
本来医療を受けるべき状態であっても、
不信感のために医療を受ける適切なタイミングを逃し、
代わりに医学的根拠の無い方法に
多額の時間や金銭をつぎ込んだりするようになってしまいます。
そして最悪の場合は、
後戻りのできない健康状態にまでなってしまいます。
私たち医療者は残念ながら、
常に全ての方に理想的な医療を提供するということはできません。
しかし、ほとんどの医療者が限られた条件の中で、
患者さんにとって最善だと思われる医療を提供できるよう
努力しています。
インターネットの普及によって、
これまでほとんど知ることができなかった
医療に関する情報なども、
容易に検索できるようになりました。
しかしそれらの情報の中には、
正しい情報もあれば、間違えている情報も多々あります。
特に健康・医療に関する情報は、
一歩間違えると自身あるいは家族の健康に、
直接影響を及ぼす場合もあります。
それだけに、
「その情報は信頼できるものなのか?」
ということを、慎重に見極めることが必要です。